夫婦2人が旅立ったのは
2月7日だった。
飛行機から見えたアイルランドはなんと雪景色。18年ぶりとかの大寒波ということだった。
僕がアイルランドに興味を持ち出したころはアイリッシュ・タイガー(90年代・00年代の好景気の時期)よりずっと前で、若者たちの失業率が高く、土地は牧草地か石ころだらけ、廃墟のお城がくずれていく荒涼としたイメージだったころだ。
作家ジェームス・ジョイスやサミュエル・ベケットなどを読み、ミュージシャンのヴァン・モリソンを聞き始めたのが70年代。アラン・パーカー監督の「コミットメント」はR&Bグループを立ち上げる若者の音楽集団を撮った91年作だが、まだそこかしこにそんな負のイメージが若者の屈折した気持から感じられた映画だった。
この映画はU2が「ヨシュアツリー」で世界制覇したあとでもあり、U2の出身地アイルランドってどんな音楽事情なん?みたいにしか見られてなかったが、僕には当時の若者の生活が色濃く出た出色の音楽映画であった。
音楽で有名になる前はアイルランドといえば「じゃがいも飢饉」、「移民」、「IRA」ということになっていた。
19世紀の「じゃがいも飢饉」で800万人いた人口が400万人になり、いまでも420万人、北アイルランドの人口を入れても600万人であり、19世紀から21世紀へ人口が減っている唯一の西欧の国である。
一言で言ってしまえば「貧しい国」だったのである。
ところが昨年(2008年)のイギリスBBC調査によると、世界で一番すみやすい国にアイルランドが選ばれていた。政治的にも安定し、経済も順調、なによりも人々の暮らしのクオリティーが高いということらしい。
アイリッシュ・タイガーが終わったとはいえ、ダブリンの街中はとても活気があった。ダブリン港付近はどでかいビルの建設ラッシュだし、交通渋滞を緩和するために高速道路を何本も建設中だ。
お店で働く人たちも、とても活気がある。日本のような「いらっしゃいませ、お飲み物はよろしかったですか」みたいな変なマニュアル言葉の擬似サービスやクレームがきたらこのように対処する、みたいな後ろ向きの姿勢ではない。
来てもらったお客さんにいかに楽しんでもらえるか、喜んでもらえるかといったプラス思考のサービス精神が旺盛なのだ。チップ制のサービスになじんでいない日本人の僕たちも、これなら払ってもいいと思えるくらいだった。そうした労働意欲をささえているのは、個々人の豊かな生活への志向があるからなのだろう。そして何より働くことの喜びを感じているように思う。
BBC調査に出てきた暮らしのクオリティーの高さと言うのは、実は労働の質の高さではないかと僕は思う。つまり、働くことによってその労働が人のためになる、そしてもっと喜んでもらえるように仕事の質を高める。人々の暮らしと言うものは、引きこもってでもないかぎりさまざまな労働の価値を受け取って、消費して暮らすことである。その労働の価値が低ければ暮らしのクオリティーも低くならざるを得ない。
さらに、アイルランドは失業しても次の仕事が見つかるまで生活が保障されている。他の国ではフランス最長60ヶ月、ドイツ最長32ヶ月、我が日本はというと最長12ヶ月・・・。安心して働けることの意義はかなり労働意欲に影響を及ぼしているようにおもうがどうだろう。
アイルランドの派遣労働者は、日本のように多くはないが存在する。驚いたことに派遣の人のほうが正規社員より自給では高いと言うことだった。
さらに、さらにこの国アイルランドは医療費が無料!国立病院なら誰でも、保険料を払ってない人でも受診できるのだ。でも待ち時間が長いので、裕福な人は保険に入って近くの私立病院で診てもらうと言うことだ。
充実した失業保険と医療費無料。この二つのセーフティネットだけでどれだけの命が、家族が救われることか。税金が高いというが、人間の生命を基本的に保障することなしに豊かな生活、クオリティーの高い暮らしなど絵に描いた餅だろう。
ガイドによると1000万円くらいの収入があれば42%くらい税金で取られます、といっていたが、日本のように中途半端に訳のわからない税金やら保険金やら消費税やらとられたうえで、むだな公共事業やら、金融債権やら、銀行支援の公的資金投入やら、税金還流でしかない企業献金に使われたのじゃたまったものじゃない。
ダブリンの港と空港を結ぶ地下トンネルを走ったが、ここの面白いエピソードを聞いた。アイルランドは好景気で輸出・入も、うなぎのぼりだったため、交通渋滞がひどくなりその緩和のためにこのトンネルを作った。トンネル掘りの技術がないため日本の「トンネル屋」に依頼。
しかし、出来たトンネルにはヨーロッパを行き来する肝心のコンテナ車が入れない。数センチ高さが足りないと言う。アイルランド国内のコンテナ車は大丈夫なのだが・・・。いったい何のために作ったのか。