今回の旅は大自然に浸るには格好のところだった。
成田から飛行機をデンバー(コロラド州)で乗り継ぎ、ジャクソンホール(ワイオミング州)に降りた。降りたその空港がグランドティトン国立公園の中であった。雄大な草原とロッキー山脈が待ちかまえていた。
レンタカーは空港のチェックインフロントの並びにあり、とても便利だった。左手に雪渓のある岩の山々、まさにロッキーだった、をみて、草原の中(ジャクソンハイウエイ)を北に向かって進み、宿があるコルターベイのロッジをめざした。この道はほぼスネークリバー沿いを走るのだが、その途中の川のそばにはバッファローの群れがいた。1000頭はいたであろうか(ここにはいつもいることが後にわかったが)、感激だった。その道はイエローストーン国立公園につながる。
ロッジにたどり着くまでにグランドティトンがアメリカ一美しい国立公園であると言われていることを実感した。私はこの道を幾度となく往復したためか、展望台(Elk Ranch Flats Turnout)からすぐ見えるところにプレリィドッグの住処があることを知ることができた。私はプレリィドッグを自然の中で見たのは今回が初めてだった。とてもうれしかった。
グランドティトンで滞在したところはジャクソン湖のほとりだった。宿泊施設の一帯にはガソリンスタンド、レストラン、ジェネラルストアと船着き場などあった。そこで5泊した。アメリカの国立公園は自然の景観を壊すことなく施設などがつくられている。湖の対岸にはグランドティトンやモーレン山などの山々が見えた。それらは湖面から飛び出している。雄大で、圧巻だった。この山脈はアメリカで最も若いそうだ。山脈と湖の境には活断層があり、湖と山脈の景観はその活動によってできたものだった。ここではマグニチュード8クラスの地震がいつ起きてもおかしくないそうだ。
湖を取り巻く森には散策路がたくさんあり、森林浴にはもってこいであった。歩道のところどころには見晴らしの良いところがあって水面に浮かぶロッキーの山々の眺望が楽しめた。かの地の光景はスイスとも違うし、パミール高原とも違っていた。アメリカはいい。
レンターカーで旅ができ、自由で、治安もいい。道路は広くゆったりしている。国立公園は広く、混雑していない。入園料はグランドティトン・イエローストーン国立公園、2週間で車一台につき1万円にも満たない。あらゆるところで新たに入場料を支払う必要がない。アメリカは合理的な国であると思う。
草原の中をトレッキングするロードがないのは残念だったが、道路を横断するコヨーテの親子に遭遇した時は興奮した。考えてみれば、見晴らしの良い広大な草原を散策していたらオオカミに襲われるかもしれないので、ないことも納得できた。
Jackson Lake JCTからTeton Range
Antelope Flats Rd-1
Antelope Flats Rd-9
Antelope Flats Rd-11
教会-1
Oxbow Bend-1
Oxbow Bend-アザミ
Elk Ranch Flats Turnoutでバッファロー-1
Elk Ranch Flats Turnoutでバッファロー-2
野生動物に気を使ったゴミ箱-2
Colter Bay Village駐車場
Colter Bay Village Trailにて-2
Colter Bayでボートをこぐヒト
Colter Bay Village Cabinの内部
食事Salad
数日後、北にあるイエローストーン国立公園(世界初の国立公園)に向かった。
一本道なので迷うことはない。
グランドティトン国立公園を抜ける辺りから道端の森の異変に驚いた。木々が立ち枯れていた。異様な光景が続いた。それは森林火災の爪痕だった。乾燥する夏季には落雷の影響や強風で木々がこすれあいをすることが原因で自然発火し、火災になることも珍しくないそうだ。
自然現象の火災は宿泊施設などがある周辺を除いて、積極的な消火をしないので、焼けてしまう。そして広大な立ち枯れの木々ができることになる。これらの国立公園では自然をありのままにするという、コンセプトがあるからだ。広大な国土をもち、裕福なアメリカならではの所産である。今回訪れた国立公園の森を見て、枯れ木も山の賑わいというフレーズがぴったりだと感じた。この立枯れの木々はイエローストーン国立公園のいたるところにあった。
園内の林の8割はロッジポールという松の木が占めているそうだ。この松の種子、松かさには性質の異なるものが、2種類がある。一つは翌年種子をまき散らすもの、もう一つはロウで種子が覆われ硬くなって通常の状態では発芽できないものである。森林火災の翌年には後者の松の種子が発芽し、新たに森林を再生するという。事実、立ち枯れた木々の間には背丈がそろった若い木々があった。これは長い年月の間に何度も火災に見舞われた結果、進化の過程で生き残るすべを松ぽっくりの中に潜ませたということである。なんと巧みなことだろうか。感動した。生物は自然と共に生きるものなんだ。
イエローストーンではキャニオンヴィリッジに7泊した。快適だった。部屋の中でさえゴミの分別がしっかりしていた。可燃ごみ、コンポストと資源ごみの3つだった。りんごのへたはコンポストというゴミ箱に捨てるなどということは経験したことがなかった。表にあるゴミ箱もクマに漁られないよう厳重だった。そこには野生動物を餌付けしないというコンセプトがあるからだ。
イエローストーン国立公園には絶句した。世界の半分の温泉、世界の2/3の間欠泉がそこにはあるそうだ。とても見尽くせるものではない。地球の活動が観察でき、その規模は他に類を見ないところである。個性的な間欠泉を見る楽しみ、温泉の美しさ、その周囲に生息する微生物が作る色彩の見事さ(バクテリアマットという)、元始の地球の生命体を垣間見ることができた思いだ。人間には到底及びもつかない模様や色彩がそこにはあった。
そこはマグマの活動ばかりではない。ラマーバレーやヘデンバレーの草原はバッファローなどの野生動物の気配でむんむんしているところだ。バレーといっても日本人が想像する渓谷とは程遠い。広大な草原である。水を求めて水鳥や野生動物がやってくる。スケールが大きいので肉眼での観察は難しい。いるなという程度だった。時々、道路を横断するバッファローに出会った。巨体である。重さは1トンとか。
エルク(鹿)がマンモス温泉の観光案内所の芝生に来た時には、その付近には近づけなくなった。私たち人間が、野生動物の住まいにお邪魔しているので、かれらと距離を保つようにしなければならないからだ。運よく、温泉で昼寝するバッファローを近くで見ることもできた時はさわりたくなったが、それはできない。それも禁止されている。
バッファローについてはこんな注意書きがあった。もしバッファローと遭遇し、目が合い、彼の尾が上に立った時は即座に逃げろ、と。これが突撃の合図だそうだ。バッファローはのろく見えて、実は本気になると時速60キロで走るそうだ。1トンもある巨体とぶつかりあったら、ただでは済まない。
イエローストーンの園内は通行できるところが限定されている。道路は8の字で、ゲートが5つあるので、各ゲートは8の字のどこかにつながっている。その8の字の左下の道路は Isa lake を渡っている。この湖が大陸分水嶺であった。それはちっぽけな湖で、ここから一方が太平洋、他方が大西洋に注ぐのかと思ったら、感無量だった。それはとても小さいが大きな役割を背負った湖だった。こんな経験はめったにできるものではないと思った。
イエローストーン国立公園では Wi-Fi はフロントエリアのみで使用は有料である。他の場所では使えない。もちろんTVはない。グランドティトンは船着き場とレストラン、ストアとビッレジの受付周辺でフリーのWi-Fiが使える。TVはない。だからこそ自然に浸りきれるのだ。
最終日はジャクソンホールの町中に泊まった。
Four Winds Motel というところである。ジャクソンホールには極寒期エルクが南下して来るそうだ。その時はエサをあげ、春になると鉄砲を撃ち、それをのがれたものが自然界に帰るという、半野生、半家畜のような仕組みをとっている。これで何とか個体数のバランスをとっているそうな。アメリカの小さな町は味わい深い。このジャクソンホールは開拓魂の名残を感じるところだった。この街は旅のフィナーレにふさわしいところだった。アメリカの良さはこんな田舎街に潜んでいると私は感じた。
食事について。コルターベイにあるレストランは何をとってもおいしかった。キャニオンヴィリッジはM66という Bar & Grill がいい。バッファローのハンバーガー、エルクとバッファローのソーセージなどを食べ、全種類(5種類)の地ビールを堪能した。ジャクソンホールでは泊まったモーテルの隣の The Blue Lion というレストランで夕食をとった。洗練されたおいしい料理がでた。ちなみに私が食べたのは鉄砲から逃げ損ねたエルクの肉、エルクのテンダーロインステーキだった。複雑な気持ちにもなったが、おいしいテンダーロインだった。
このような観察はある程度の時間をかけ、足で歩き、観た賜物に他ならない。私はある程度時間を作って旅をすることが好きだ。次から次へと恋人を変えるような旅ではなく少し時間をとって見つめることで旅はより深くなる。
アメリカは遠い。グランドティトン、イエローストーンでは宿泊施設も、レストランも安くはない。だからこそ、それらに見合った時間をある程度かけることがそれを生かすことになるのではないだろうか。
素敵な旅を提供してくださったパーパスさんに感謝いたします。